生産効率を上げる要となるのが、冷凍冷蔵庫、ドウコンです
読者の皆さんは不思議に思いませんか?当然、機械の説明なら最重要のオーブン、或いは、製パン工程の一番最初で、パンの出来を左右するミキサーから始めるのが当然とお考えのことと思います。
でもあえて今回は発酵室・冷凍冷蔵庫から始めます。ご存知のように昔はパンの売値は原材料費の3倍と言われていました。それは、売値に占める原材料費比率が一番高かったからです。しかし、今は人件費比率がダントツに高くなっています。
でも、人件費を切り詰めると人が集まりません。賃金を潤沢に用意することがベーカリー経営の最重要課題になっています。その為には、生産効率を上げることです。生産効率を上げる要となるのが冷凍冷蔵庫です。私のお店ではほとんどの生地を1週間分まとめて仕込み、営業日である5等分して、冷蔵・冷凍します。
生地のまま冷凍・冷蔵するもの、生地玉で冷凍冷蔵するもの、成形冷蔵するものさまざまです。スクラッチで焼き上げるものは大容量の食パンとリュスティックぐらいです。これからのベーカリーは美味しくなるうえに、時間に追われることの無い、気持ちに余裕を持ってパン作りの出来る冷凍・冷蔵法を駆使することです。
幸い、原材料・機械設備共に昔とは比べ物にならないほど、改良され進化しています。初期投資・厨房スペースのめんで、負担は大きくなりますが将来のこと、従業員・自分自身のためにも、このことお考えください。
第1発酵室(冷蔵装置付き)
パン作りで一番大切なのは「発酵」ということは誰もが認めることです。でも、第1発酵室(27℃、75%)を設置しているベーカリーは意外と少ないです。職人の勘で発酵を見極めるのが「パン屋の本分」と言っていたのは一昔前のこと。オーナー本人は発酵を見極められても、毎日オペレーションするのは若手、まだ経験の浅い技術者です。是非、冷蔵機能付きの第1発酵室を設置してください。
ホイロ(第2発酵室)
パンの美味しさには重要な工程です。ホイロが長過ぎると窯落ちしますし、短いとボリューム不足、口どけの悪いパンになります。専門書にはホイロ条件として38℃、85%と記載されているものが多いですが、それは実験室、講習会のことです。人手があり、工程通りにパン作りが進行する時はそれで良いのですが、私のパン作り現場のように人手が少なく、常に工程が変化している現場では温度・湿度が高過ぎます。
私のお店では32.℃、75%で設定しています。この条件だと少しぐらいの工程のブレ・変化ではパン品質に影響しません。皆が勝手に温度・湿度を変えるのも考え物ですが、担当者が責任を持って最適な温度・湿度を設定してください。
冷蔵庫
何℃に設定していますか?私のお店は通常+1℃、お休みの前日はー1℃に設定しています。ご存知のようにフランスパン生地が凍るのはー3.5℃です(最大結晶生成帯)。当然、フランスパンより配合がリッチな生地の凍結温度はー3.5℃以下になります。
冷蔵発酵させながら、生地の凍らない温度を設定してください。冷蔵中の生地環境も重要です。私のお店では生地玉冷蔵の場合、冷蔵天板に青色ビニールを引きその上にライトロンスリット(ピンク)をひいています。生地玉をライトロンスリットの上に並べて、最初30~60分は裸で冷蔵庫に入れます。その後、生地表面が十分に冷えたところで残り半分の青ビニールで表面を覆い、細いパイプを重石代わりに3方向に置きます。
冷蔵庫の中は想像以上に空気の流れが有ります。ビニールをかぶせてもしっかり固定をしないと、風でビニールがめくれて、生地が乾いてしまいます。生地表面水分の飛んだパン生地は焼き色が付きません。お気を付けください。
冷凍庫
温度はー20℃です。冷蔵庫と違い沢山入っていても、冷風の吹き出し口がふさがっていない限りは問題ありません。しかし、どこに何が入っているかは分るようにしてください。キャビネットタイプで扉を開けたまま探し物をすることは極力避けなければなりません。
生地の乗ったトレーに名札を乗せるのはもちろんですが。同じ名札を冷凍庫の外扉にマグネットで表示するなり、場所を特定する工夫をしてください。(扉の開閉が多かったり、開けっ放しにすると、デフロストがあるとはいえエバポレーターの回りに結露をします。少なくとも半年に1度はエバポレーターをチェックし結露している場合は強制解凍をしましょう。冷えが悪い、温度が-20℃まで下がりきらないと感じた時は結露が考えられます。
ボックスタイプ冷凍庫の場合は決して段ボールごと冷凍庫に入れないこと、ビニール袋には必ず日付と名前を書き、中の空気を極力抜いてください。中の空気には湿度があり、冷えることでその水分は結晶となります。ビニール袋の中の氷結晶は大きくなろうとして生地中の水分まで奪い、生地のミイラ現象(白色に変色すること)の原因となります。
急速冷凍庫(-40℃、ショックフリーザー)
生地を急激に凍らせ、冷凍生地の保存期間を劇的に長くすることが出来ます。しかし、ここには長く入れないことです。生地玉の場合、中心部の生地が3割ほど残った状態でー18℃の冷凍庫に移すのが品質の良い冷凍生地を作る最大のポイントです。加えて、リテイルベーカリーで1週間以内に冷凍生地を使い切る場合はショックフリーザーは使わない方がホイロの出も早く、品質の良いパンを焼くことが出来ます。
最近は製品冷凍にも多く利用され、焼立ての味・香りまで閉じ込められると言われています。短時間焼成でクラストの薄いパンは出来るだけ焼立てで冷凍することをお勧めしますが、焼成時間の長い、クラストの厚いパンはクラストとクラムの水分差が大きいため、そのまま冷凍するとクラスト剥離の原因となるため、ある程度クラストとクラムの水分差を解消したのちに冷凍する方が良いとも言われています。(メーカーに確認のこと、昔の理論かも?)
ドウコンディショナー(ドウコン)
冷凍からホイロ迄、時間設定することで自動制御が出来ます。オーブンと連動させると出勤後30分で焼き立てのパンをお店に並べることも出来ます。午前中はそのままホイロとして使用し、焼成が一段落したところで冷凍に切り替え、翌日のための生地を入れていきます。昔は、生地の表面部分と内部温度が違わないようにドーコンの温度変化を何段にも分けることを良しとしましたが、最近は生地内部の温度分布よりも、出来るだけ短時間で焼成可能な状態に持って行った方がフイッシュアイ(魚の目、鮫肌)の少ない製品を焼けると言われています。
気を付けたいのはドーコンを冷蔵庫、冷凍庫代わりに使っている例も多いことです。ドーコンには霜取り装置の付いていないものも多い、長時間冷凍・冷蔵庫として使い続けると結露して冷却能力の低下につながるので気を付けたい。
設置する場合のレイアウト上の条件
厨房内に設置する製パン機械類にはレイアウト上の制約が多々あります。あまりにも多いので全てを満足する配置はほぼ不可能ですが、その条件を知ったうえで影響の少ないと思える条件を受け入れ、妥協しながら最良のレイアウトとするのがいいでしょう。
以下のレイアウト上の注意点を箇条書きにしました。
1)冷凍冷蔵庫の上にはコンプレッサーガ付いているので、出来るだけミキサーから離し粉塵を避ける
2)コンプレッサーが冷えやすいようにダクトの側が良い
3)ホイロは窯の側が良い
4)モルダーはホイロの側が良い
5)第1発酵室はミキサーの側が良い
6)第1発酵室は作業台の側が良い